書いた人:黒澤 文
2021.01.05
私は福島県に生まれ育ち、53年が経ちました。
ひとえに福島といっても、面積の広い福島県は、東から浜通り・中通り・会津地方と縦にざっくり地域を分けていて、気候も違えば食も伝統文化も言葉も違います。
私は中通りの一番北に位置する福島市の出身で、縁あって中通りの一番南に位置する白河市に嫁いだのですが、嫁いだ当時は方言の違いに面食らいました。
首都圏の人が聞いたら、どれも「ずーずー弁」にしか聞こえないと思いますが、単語や語尾がまったく違い、私にしたら、そんな些細なこともカルチャーショックだったのです。
例えば福島市は「そうだよね」が「そうだべした」になり、福島県南地域は「そうけ」とか「そうだんべ」になるのです。共通しているのが「んだない」でしょうか。これも「そうだよね」の方言です。
普段何気なく使っている方言ですが、よくよく考えると可笑しくなる時があります。言葉が極端に短いのです。ともすれば一文字で終わります。
来いが「こ」。食べなさいが「け」。「こ」と呼ばれて「け」とご馳走を差し出される。「こ」と「け」だけって、ニワトリか!と、ひとりでクスクス笑ったことがあります。
方言をネイティブに話すおじいちゃん、おばあちゃんたちも、首都圏の人に会うと頑張って標準語を話していたりします。方言は心を許している証拠。あたたかい言葉なのです。
そんな東北の方言は少しぶっきらぼうで怖く思われる時もありますが、親しみが込められた言葉なのです。
私は棚倉町と隣の白河市をつなぐ、ローカルなバス「白棚線」の魅力を伝える活動を、少しばかり手伝っています。
そうしたご縁や仕事などを通して、棚倉町の方々にはとてもお世話になっています。
伺えば、とりあえず家に上がれと言い、お茶を出してくれました。コタツやちゃぶ台の上には、お客様用に手作りの香の物やお惣菜などが常備されていることもありそれを皿に取り分けてくれるのです。帰りには「持ってけ」と袋に漬物などを入れて持たせてくれます。
ところでその漬物。各家庭によって味付けが違います。例えばキュウリの古漬け。
東北は寒い地域なので保存食の文化が優れていて、キュウリを長期保存する「古漬け」がよく作られています。夏に大量にとれたキュウリを冬にいただくための知恵です。味はショウガが入っていたり、少し辛く味付けされていたり、カツオブシを混ぜている人もいたり、十人十色。様々なのです。
各家庭で作られた手間暇かけたお料理をいただくことの、なんとありがたいことか。どんなご馳走より、私はこうしたもてなしが心からうれしい。
若い世代は古漬けを漬ける人も、方言を使う人も少なくなってきました。そういう私も実は古漬けは作ったことがないのです。これから覚えようか。せめて方言は堂々と話したいと、東北人として思っています。
福島に、遊びにきっせ(遊びに来てね)。
黒澤 文
1967年福島市生まれ、白河市在住。家電メーカーラウンダー、音響メーカー取扱説明書作成、夕刊記者、広告代理店などを経てフリー。2015年、ライティング・デザインのKOTONOHAを設立し現在に至る。好きなものはカメラとスラッシュメタルと新日本プロレス。KOTONOHA